日常の街角に隠された劇的な瞬間。逆光に映える人影や建物のシルエットは、特別な機材や場所がなくても、あなたのスナップ写真を格段にドラマチックに変身させてくれます。今回は、初心者でも実践できるシルエット撮影のテクニックをわかりやすく解説します。

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「スナップ写真の撮り方|構図・光・視点で変わる日常の切り取り方」シリーズの前回記事はこちら↓

シルエット撮影の基本原理を理解しよう
シルエット撮影は、明るい背景と暗い被写体のコントラストを意図的に作り出す撮影技法です。被写体の詳細な表情や質感よりも、その形や動きに注目させることで、見る人の想像力を刺激し、物語性のある写真を作り出せます。
なぜシルエット写真は魅力的なのか
シルエット写真の魅力は、被写体の「輪郭」だけで表現することにあります。余計な情報を排除することで、見る人は自然とその人物の感情や状況を想像するようになります。これが写真に物語性と神秘性を与える要因となっているのです。
スナップでシルエットを狙う基本設定
シルエット撮影では、通常のスナップ撮影とは異なるカメラ設定が必要です。以下の基本設定をマスターしましょう。
推奨カメラ設定
- 撮影モード: マニュアル(M)またはシャッター優先(S/Tv)
- ISO感度: 100~400(低ノイズを保つ)
- 絞り: F8~F11(被写界深度を深くする)
- シャッタースピード: 1/125秒以上(手ブレ防止)
- 露出補正: -1.0~-2.0段(シルエットを濃くする)
- 測光モード: スポット測光(背景の明るい部分に合わせる)
露出の考え方
シルエット撮影の成功の鍵は露出設定にあります。ニコンの公式テクニックガイドでも解説されているように、背景の明るい部分に露出を合わせ、さらにマイナス補正を加えることで、被写体を意図的にアンダーに仕上げることがポイントです。
効果的な被写体とシチュエーション
シルエット撮影に適した被写体
スナップ撮影でシルエットを狙う際は、以下のような被写体を意識して探してみましょう。
- 人物: 歩く人、自転車に乗る人、ベンチに座る人
- 建築物: 特徴的な建物の輪郭、橋、電線や電柱
- 樹木: 枝ぶりの美しい街路樹、公園の木々
- 動物: 犬の散歩、野鳥のシルエット
理想的な撮影時間帯
ゴールデンアワー(日の出後・日没前の1時間)は最も効果的ですが、都市部のスナップでは以下の時間帯も狙い目です。
- 朝7-9時: 通勤する人々のシルエット
- 昼12-14時: 強い日差しを利用した逆光撮影
- 夕方16-18時: 帰宅する人々と夕日のコラボレーション
曇りの日は光源が分散してしまうので、シルエットになりにくいので、狙って撮影する際は天気を確認しよう
構図とアングルのテクニック
被写体を際立たせる構図のポイント
カメラのキタムラの解説記事でも触れられているように、シルエット写真では被写体の輪郭の美しさが最重要です。以下のポイントを意識してください:
- シンプルな背景を選ぶ: 空や明るい壁など、できるだけ単純な背景
- 被写体同士の重なりを避ける: 複数の人物がいる場合は輪郭が分かるように
- 特徴的なポーズを狙う: 歩いている瞬間、手を振る動作など
効果的なアングルとレンズ選択
シルエット撮影では、広角〜標準レンズ(24-70mm相当)が最も使いやすいです。これは被写界深度が深く、被写体の輪郭をシャープに捉えやすいためです。
アングル別のコツ
- ローアングル: 被写体を大きく見せ、空を背景にしやすい
- アイレベル: 自然な視点で日常の一コマを切り取り
- ハイアングル: 地面の明るい反射を背景に活用

都市部でのシルエット撮影テクニック
光源を見つけるコツ
都市部では太陽以外にも様々な光源を活用できます。
- 建物のガラス面からの反射光
- 地下街や商業施設の明るい出入り口
- 駅のホームや地下鉄の照明
- 夜間の街灯やネオンサイン

逆光でのフレアやゴースト対策
逆光撮影では、レンズフレアやゴーストが発生しやすくなります。これを防ぐには、
- レンズフードを使用する
- 手やカードで光源を遮る
- 撮影角度を微調整して光の入り方を変える
- レンズを清潔に保つ
敢えてフレアやゴーストを発生させ、それも一つの表現として効果的な場合もあり。特にオールドレンズなんかが良い雰囲気になるぞ。
測光と露出のコントロール
測光モードの使い分け
シルエット撮影ではスポット測光が最も効果的です。背景の最も明るい部分(太陽の周辺など)にスポットを当てて測光することで、被写体を確実にシルエットにできます。
露出補正のテクニック
基本の測光結果からさらに-1.0〜-2.0段の露出補正を加えることで、より濃いシルエットが得られます。液晶モニターで確認しながら、理想的な濃さに調整しましょう。
ホワイトバランスで雰囲気を演出
シルエット写真では被写体が黒一色になるため、背景の色味が写真全体の印象を大きく左右します。ホワイトバランスを調整することで、同じ被写体でも全く異なる雰囲気の写真を作り出せます。
効果的なホワイトバランス設定
- 晴天(5200K): 自然な色合い
- 日陰(7000K): 暖かみのあるオレンジ系
- 電球(3000K): クールなブルー系
- オート: カメラが自動調整(安定した結果)
RAW撮影をしておけば、後からPCで自由に調整できるのでおすすめです。
スナップ撮影でのマナーと注意点
被写体となる人物への配慮
スナップでシルエット撮影を行う際は、以下のマナーを守りましょう。
- 個人が特定できないよう注意
- 通行の邪魔にならない位置で撮影
- 必要に応じて事前に声をかける
- 撮影禁止エリアを事前に確認
よくある失敗と対処法
失敗パターン1:被写体が半端に明るい
原因: 露出補正が不十分
対処法: さらにマイナス補正を加える、測光位置を見直す
失敗パターン2:背景が白飛びする
原因: 光源が強すぎる
対処法: 撮影角度を変える、光源を被写体で隠す、NDフィルターを使用
失敗パターン3:被写体の輪郭がぼやける
原因: ピントが甘い、絞りが開きすぎ
対処法: F8-11に絞る、適切な距離でピント合わせ
RAW現像での仕上げポイント
シルエット写真の魅力を最大限に引き出すRAW現像のコツ:
- ハイライト: -50~-100(背景の白飛びを抑制)
- シャドウ: -50~-100(シルエットをより濃く)
- コントラスト: +20~+50(明暗差を強調)
- 明瞭度: +10~+30(輪郭をシャープに)
- 彩度: 控えめに調整(背景の色を強調)


シーン別撮影のコツ
駅・電車でのシルエット撮影
ホームの照明や車窓からの光を背景に、乗降する人々のシルエットを狙えます。安全に配慮し、他の乗客の迷惑にならないよう注意しましょう。
カフェ・店舗でのシルエット撮影
大きなガラス窓のあるカフェや店舗では、外の明るさを背景にした美しいシルエットが撮影できます。事前に撮影許可を確認することをお勧めします。
公園・広場でのシルエット撮影
開放的な空間では、空を背景にした大きなシルエットが撮影しやすくなります。子供の遊ぶ姿や散歩する人々など、自然な日常の一コマを切り取れます。
機材選びのポイント
おすすめカメラとレンズ
シルエット撮影では、以下のような機材が効果的です:
カメラ
- ミラーレス一眼: 軽量で機動性が高い
- APS-C・フルサイズ: 高画質でダイナミックレンジが広い
レンズ
- 24-70mm F2.8: 幅広いシーンに対応
- 35mm F1.8: 軽量で自然な画角
- 50mm F1.8: 美しいボケ感も楽しめる
まとめ|逆光を恐れず、シルエットの魅力を楽しもう
シルエット撮影は、「逆光は避けるべき」という常識を覆す撮影技法です。適切な露出設定と構図の工夫により、日常のスナップ撮影に劇的な変化をもたらしてくれます。
重要なポイントをおさらいすると:
- 露出補正でしっかりとアンダーに
- 被写体の輪郭を意識した構図
- シンプルで明るい背景選び
- 撮影マナーを守った実践
次回の撮影では、ぜひ逆光の状況を見つけて、シルエット撮影にチャレンジしてみてください。きっと新しい表現の可能性を発見できるはずです。


