幻想的に光る工場群の夜景は、多くの写真愛好家を魅了する被写体の一つです。
今回は川崎の工場夜景撮影において、羽田イノベーションシティからスタートし、川崎マリエン、千鳥運河、千鳥町貨物ヤード前、そして扇橋まで巡る、工場夜景だけであれば約4時間の撮影ルートをご紹介します。
α7Ⅳ×SEL70200GM2の組み合わせで、日曜日の夜に撮影した実体験を基に、各スポットの特徴と撮影テクニックを詳しく解説していきます。
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川崎工場夜景の魅力とは?
川崎工場夜景は、京浜工業地帯の中でも特に美しく、アクセスしやすい工場夜景スポットとして全国的に知られています。明治時代から続く埋め立て地に形成された工業地帯では、昭和12年から神奈川県による10か年事業で京浜工業地帯の造成が行われ、現在の千鳥町や扇島などの工場群が形成されました。
東京駅から車でわずか30分という好立地にある川崎の埋め立て地域には、石油化学、鉄鋼、電力などの大規模プラントが集積しており、夜間でも24時間稼働する工場の光が幻想的な景観を作り出しています。
撮影ルートとアクセス情報
基本情報
- 撮影日時:日曜日、15:00〜23:00頃
- スタート地点:羽田イノベーションシティ
- アクセス:東京駅から車で約30分
- 移動手段:車(各スポット間の移動)

使用機材詳細
- ボディ:SONY α7Ⅳ
- レンズ:FE 70-200mm F2.8 GM OSS II(SEL70200GM2)
- フィルター:Kenkoクロスフィルター
- 三脚:VANGUARD VEO 2GO 265HAB(旧モデル)/マンフロット 190
今回の工場夜景スポット&ルート詳細

スポット別・撮影レポート
【スポット1】羽田イノベーションシティ(HIC)&羽田空港(15:00~18:00)
撮影は羽田イノベーションシティと羽田空港からスタートです。ここは川崎工場夜景撮影の前哨戦として、一日の撮れ高も考えたルートになります。
HICから東京モノレールで羽田空港第2ターミナルまではわずか10分という好アクセスのため、空港内でのスナップ撮影や展望台からの飛行機撮影も併せて楽しめます。夕方の柔らかい光で飛行機の発着を撮影し、空港内ではお客の邪魔にならないよう撮影をします。

HIC・羽田空港での撮影ポイント
- 夕景時の飛行機撮影:オレンジ色に染まる空と飛行機のシルエット
- 空港内スナップ:ターミナルの近未来的な建築美
- 展望台からの俯瞰撮影:滑走路内で働く職員を観察




【スポット2】川崎マリエン(19:00頃)
川崎マリエンの10階展望室は、地上51mから360度の工場夜景を一望できる唯一の屋内撮影スポットです。室内でも三脚の使用が可能で、今回同行した三脚初心者へのレクチャーをゆっくりと行うことができました。
ただし、ガラス越しの撮影となるため映り込みに注意が必要です。また、400mm程度の望遠レンズがないと工場夜景としてのダイナミックさに欠ける印象でした。今回の200mmでは、全体的な俯瞰は撮影できますが、迫力のある工場夜景を求める場合はより長い焦点距離が推奨されます。
川崎マリエンでの撮影ポイント
- 屋内撮影:天候に左右されずに撮影可能
- 三脚使用可:初心者の三脚練習に最適
- 360度パノラマ:東京湾から工場地帯まで一望
- 無料アクセス:展望室は入場無料
ガラス越しの反射が気になるときは、極限にレンズを窓ガラスへ近づけること、レンズフードを使うこと、場合によっては黒い布や服でレンズの周りにかぶせてしまうこと、などが効果的!


【スポット3】千鳥運河(千鳥町 三菱化学物流前)(20:00過ぎ)
千鳥運河の三菱化学物流前は、運河を挟んで向こう側の工場群を、水面への反射と合わせて撮影できる絶好のロケーションです。
このスポットの最大の魅力は、道路の端まで行くとフェンスがなくガードレールのみとなっているため、障害物なくゆっくりと美しい撮影を楽しめることです。対岸の旭化成ケミカルズを中心とした化学工場群が、運河の静かな水面に映り込む様子は、川崎工場夜景の中でも特に幻想的な光景の一つです。
千鳥運河での撮影ポイント
- 水面への反射:運河に映る工場の光が鏡面効果を生み出す
- 化学プラントの複雑な構造:パイプラインや煙突が織りなす工業美
- 車内からの撮影:寒い時期でも快適に撮影可能
- 三脚使用可能:路肩での長時間露光撮影


【スポット4】千鳥町 貨物ヤード前(21:00過ぎ)
千鳥町貨物ヤード前は、川崎工場夜景でおそらく最も有名な撮影スポットです。線路と工場夜景のコラボレーションが楽しめ、近くで稼働している化学プラントの迫力を間近で感じることができます。
ただし、撮影時には注意が必要です。線路が写り込む画角での撮影は可能ですが、安全面と法的な観点から判断が分かれるところです。立ち入り禁止の看板があるものの、どこから立ち入り禁止なのかがかなり不明瞭な状況でした。
撮影時の安全ルール
今回の撮影では、以下のルールを設定しました。
- 線路内への侵入は絶対禁止
- 線路を超えた敷地への侵入も禁止
- 公道からの撮影に限定
- 他の撮影者や地域住民への配慮を最優先



【スポット5】扇橋(22:20頃)
扇橋での撮影では、ストリートビューで路上駐車ができないと判断し、近くのNTTルパルク浜川崎駅前第1駐車場を利用しました。20時以降は1時間100円という格安料金で、ここから扇橋までは徒歩約15分という好立地です。
扇橋からは、線路沿いや川沿いの工場群を様々な角度から撮影することができ、他のスポットのような「同じ画角、同じような被写体」というマンネリから脱することができます。昭和電工(現レゾナック)のプラント群は、通称「ホワイトキャッスル」と呼ばれ、白色のメタルランプが幻想的な光を放っています。
扇橋での撮影の魅力
- 構図の自由度:橋上からの俯瞰撮影で様々な構図を選択可能
- 昭和電工プラント:川崎工場夜景のランドマーク的存在
- 南渡田運河:運河と工場の組み合わせが美しい
- アクセスの良さ:JR鶴見線昭和駅から徒歩4分


工場夜景撮影で意識したテクニックと設定
【テクニック1】三脚を活用した長秒露光撮影
工場夜景撮影において、三脚の使用は必須です。今回の撮影で観察したところ、たまたまデートのついでに撮影しに来たカップルが手持ちで撮影していました。おそらくブレブレか暗すぎる写真になってしまっていたと思います。
長秒露光撮影の設定
- F値:F8〜F16で調整(回折による画質低下を避けるため)
- シャッタースピード:10〜20秒の長秒露光を基本
- ISO感度:100〜400(ノイズを最小限に抑制)
- セルフタイマー:2秒設定でブレを防止
【テクニック2】マニュアルフォーカスによる精密なピント合わせ
MF(マニュアルフォーカス)に設定し、ピント合わせ時のズーム機能(拡大表示)を活用して、工場の複雑なパイプラインや建物の細部が確実に解像するよう丁寧なピント合わせを心がけました。
ピント面がデジタルで色づくピーキング機能なども活用しよう。
【テクニック3】クロスフィルターによる表現効果
Kenkoクロスフィルターを使用することで、工場の光源に十字の光条を発生させ、より幻想的で印象的な工場夜景を演出することができました。特に点光源が多い工場夜景では、クロスフィルターの効果が非常に映えます。

【テクニック4】露光中にズームやピントをずらす
なんか他にはない面白い表現はできないもんかね?
露光中にズームしたら面白いぞ
工場夜景の写真といったら、ピキピキで線がハッキリとしたものが多い印象です。ネット上で下調べした写真と同じものを撮っても面白味に欠けるということで、フィルターだけでなく、「カメラの撮影技法」で面白い表現ができないか試してみました。
ズームをずらす
ズームレンズだからこそできる遊び表現です。ズームのスピードやズームの速さを変えたり、少しズーム一旦止めるまたズームするを繰り返す表現もできます。
さて、どんな画が撮れるでしょうか?



ピントリングをいじる
15秒露光の写真です。もちろんしっかりとピントを合わせ、15秒待つことでBeforeのように明瞭度の高い工場夜景らしい撮影ができます。ピキピキですね。ここで、13秒待ち残りの2秒でピントをずらしてみるとAfterのように光源が玉ボケする表現が可能です。タイマーはありませんので、感覚です。
時間の配分は適当です。13秒でしっかりとプラントのパイプや柱を表現し、残りの2秒で玉ボケを写すといった意図はあります。例えば、5秒でピントをずらし始めてしまうと、パイプや柱がしっかりと表現できません。ぎりぎり待つことが重要な気がします。


工場夜景撮影の注意点とマナー
撮影時の安全配慮
工場夜景撮影であっても、従来よりお伝えしている通り「ルールを守って正しく撮影する」というスタンスを変えることはありません。しかし、現実的にはルールが曖昧な場所も多く、そのような場合の立ち回りには特に注意が必要です。
基本的な安全ルール
- 立ち入り禁止区域の厳守
- 線路や工場敷地への侵入禁止
- 他の撮影者との適切な距離感
- 地域住民への迷惑防止
- 夜間の安全運転と駐車マナー
撮影マナーの重要性
工場夜景撮影において最も重要なのは、「他人に迷惑をかけない」という最大の配慮です。自分たちでしっかりとラインを引いて、責任ある撮影を心がけることが、この美しい撮影環境を将来にわたって保持するために不可欠です。
まとめ|川崎工場夜景撮影の魅力と価値
今回の羽田イノベーションシティから含めると扇橋までの8時間撮影ツアーでは、川崎工場夜景の多彩な魅力と撮影テクニックを存分に体験することができました。昼間の飛行機撮影から夜の工場夜景まで、時間の流れとともに変化する被写体を楽しめるのが、このルートの大きな魅力です。
α7Ⅳ×SEL70200GM2×三脚の組み合わせは、工場夜景撮影において理想的な性能を発揮しました。200mmの望遠域では川崎マリエンでの撮影においてやや物足りなさを感じましたが、他のスポットでは十分な迫力と美しいボケ効果を得ることができました。
このルートをおすすめする理由
- アクセスの良さ:東京駅から車で30分、電車でもアクセス可能
- 撮影スポットの多様性:屋内・屋外、俯瞰・接近など様々な撮影スタイル
- 初心者から上級者まで:撮影レベルに応じた楽しみ方が可能
- 一日で完結:夕方から深夜まで充実の撮影体験
工場夜景撮影に興味があるが、どこから始めれば良いか分からないという方には、ぜひこの川崎工場夜景ルートをおすすめします。都市近郊で気軽にアクセスできる場所にも、確実に撮れ高は存在するということを、きっと実感していただけるはずです。
ただし、撮影の際は安全とマナーを最優先に、責任ある撮影者として行動することを心がけましょう。美しい工場夜景を未来の撮影者にも楽しんでもらうために、私たち一人ひとりの配慮ある行動が重要です。
長時間の夜間撮影は体力的にも機材的にも負担が大きいですが、その分得られる達成感と美しい作品は格別です。工場夜景という日本独特の産業美を、ぜひあなたのレンズで切り取ってみてください。