風景写真を撮っていて「手前から奥までピントが合った写真を撮りたい」と思ったことはありませんか?そんな時に知っておきたいのが「ハイパーフォーカル距離」という考え方です。この記事では、カメラ初心者の方向けに、ハイパーフォーカル距離の基本から実践的な使い方まで、分かりやすく解説します。
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ハイパーフォーカル距離って何?
ハイパーフォーカル距離とは、「ピントを合わせた位置から無限遠(∞)まで、画面全体が acceptably sharp(許容できるピントの合った状態)に見える最短距離」のことです。
簡単に言うと、「この距離にピントを合わせておけば、手前から奥の景色まで全部ピントが合って見える魔法の距離」です。
この距離はレンズと使いたいF値によって変わります。24mmF8であれば自分から1.5mくらい先から奥はピントが合っていることになります。
被写界深度との関係
ハイパーフォーカル距離を理解するには、まず被写界深度(DOF:Depth of Field)の概念を思い出しましょう。被写界深度とは、ピントが合って見える範囲の奥行きのことです。
通常、ピントを合わせた点の前後に「ピントが合って見える範囲(=被写界深度)」があります。ハイパーフォーカル距離にピントを合わせると、この範囲がちょうど無限遠からピント位置とカメラの半分の距離まで(図の上段)広がるのです。

なぜハイパーフォーカル距離が重要なの?
1. 風景写真での活用
風景写真では、手前の草花から遠くの山まで、全てにピントが合った写真を撮りたい場合が多いです。通常、遠くの景色(無限遠)にピントを合わせがちですが、これだと手前がボケてしまうことがあります。
ハイパーフォーカル距離を使えば、手前から奥まで全てシャープな写真が撮れるようになります。
2. ストリートフォトでの活用
スナップ撮影で、とっさのシャッターチャンスに備えたい時も有効です。事前にハイパーフォーカル距離にピントを合わせておけば、オートフォーカスに頼らずとも幅広い距離の被写体にピントが合います。
3. 星景写真での活用
星空と地上の風景を一緒に撮る星景写真でも、ハイパーフォーカル距離は威力を発揮します。星を点像で撮りつつ、手前の風景もシャープに写すことができます。
スナップでオールドレンズを使うときはこの考え方が大事でとても楽!出来上がる画像はすべてにピントが合い、ボケ感はなく意図した表現にならないデメリットはありますが、そういう表現として楽しみましょう!
実際にハイパーフォーカル距離を使ってみよう
基本の手順
- レンズの焦点距離とF値を決める
例:50mm F11 での撮影を想定 - ハイパーフォーカル距離を調べる
計算アプリやツールを使用(後述します) - その距離にマニュアルフォーカスでピントを合わせる
レンズの距離目盛りを使用するか、ライブビューで拡大して合わせる - 撮影する
構図を決めて撮影(ピント合わせは不要)
Sonyでの設定例
Sony α7シリーズでの操作
- フォーカスモード:MF(マニュアルフォーカス)に設定
- ピーキング機能:ON にしてピントの確認をサポート
- フォーカス拡大:タッチパッドでピント位置を拡大表示
- 距離表示:一部のレンズでは液晶画面に距離が表示される
オールドレンズ・MFレンズでの活用
実は、ハイパーフォーカル距離が最も活用しやすいのはマニュアルフォーカスレンズです。特にオールドレンズには距離目盛りと被写界深度目盛りが刻まれているものが多く、計算不要で視覚的にハイパーフォーカル距離を設定できます。
被写界深度目盛りの見方
古いレンズには、距離目盛りの両側に被写界深度を示す線や数字が刻まれています。例えばF値記載の色に着目してみます「F11」の線は黄色であり、その付近にある黄色の2本の線が被写界深度のサイズになります。それ以外の赤や青の色も同じように考えることができます。

- 無限遠マーク(∞)をF11の線の左端に合わせる
- 反対側のF11の線が指す距離がハイパーフォーカル距離になる
- その距離にピントリングを合わせれば完了
この例の場合だと約5mより手前くらいから奥の景色(無限遠まで)にピントが合うという意味になりますよ。
実践的な使い方のコツ
F値の選び方
ハイパーフォーカル距離はF値が大きいほど短くなります。つまり、絞るほど手前からピントが合うようになります。
焦点距離 | F5.6 | F8 | F11 |
---|---|---|---|
24mm | 2.0m | 1.4m | 1.0m |
35mm | 4.3m | 3.0m | 2.2m |
50mm | 8.7m | 6.0m | 4.4m |
⚠️ 注意:F16以上に絞ると「回折現象」により、逆に画質が低下することがあります。風景写真ではF8〜F11がおすすめです。
計算で算出することもできますが、計算式は少し複雑です。今ではAIでの計算も楽なので、ChatGPTなどで「28mでF8の時のハイパーフォーカル距離と最短ピント面の距離を教えてください。」と聞けば出るはずです。
シーン別活用法
📷 スナップ撮影
- 事前設定:35mm F8で約3mに固定
- 利点:オートフォーカスより早い反応
- 適用範囲:約1.5m先〜無限遠まで対応
🌅 朝夕の風景撮影
- 準備:事前にハイパーフォーカル距離を計算・設定
- 利点:光が変化する中でも、ピント合わせに時間を取られない
- コツ:三脚使用時は、一度設定したらフォーカスリングを動かさない(マスキングテープなんかで留めてしまう)
🌌 星景写真
- 設定例:24mm F2.8〜F4で約3〜5m
- 注意点:星を点像にするため、あまり絞りすぎない
- 確認方法:テスト撮影で手前の風景と星の両方を確認



よくある失敗とその対策
❌ 失敗例1:手前がボケている
原因:ハイパーフォーカル距離より遠くにピントを合わせている
対策:計算した距離よりも少し手前(90%程度)にピントを合わせる
原因:最短ピント面より手前から撮ってしまっている
対策:自分と被写体の距離を常に予測しておく
❌ 失敗例2:全体的にぼんやりしている
原因:F値を絞りすぎて回折現象が発生
対策:F8〜F11の範囲で撮影する
❌ 失敗例3:距離が合わない
原因:レンズの距離目盛りが不正確、または目測が外れている
対策:ライブビューの拡大表示で正確にピントを合わせる
まとめ|ハイパーフォーカル距離をマスターしよう
ハイパーフォーカル距離は、一見言葉上は複雑そうに見えますが、実は風景写真やスナップ撮影を格段に向上させる実用的で簡単なテクニックです。
🔑 この記事のポイント
- ハイパーフォーカル距離とは:手前から無限遠まで全てピントが合う魔法の距離
- 基本設定:F8〜F11が画質と効果のバランスが良い
- 便利ツール:PhotoPillsなどのアプリで簡単計算
- 実践のコツ:マニュアルフォーカスに慣れることが重要
- 活用シーン:スナップ撮影、風景、星景で威力を発揮
最初は計算や設定が面倒に感じるかもしれませんが、慣れてくると「いちいちピント合わせしなくても、ほとんどの被写体がピントの範囲内に入る」という快適さを実感できるはずです。
ぜひ今度の撮影でハイパーフォーカル距離を試してみてください。きっと新しい写真の世界が開けるはずです!


